認知症の進行とともに変化するBPSDについての紹介

投稿者: | 2017年8月24日

ユべナルという作家が紀元前100 〜128年にある風刺文学において認知症男性を、次のように描写しています。 「彼はもはや、自分の奴隷もわからなければ、昨夜晩餐をともにした友人も認識できない。それどころか自分がもうけ、 育んだ子供たちさえわからない。そして 無慈悲にも子供たちを勘当し、全財産を (娼婦の)フイラーレに相続させると言い出したのだ」(Lipowski1981の訳)。

こうした言動は主人公の家族にとっては、認知症の行動・心理学的異常(BPSD)そのものであったことでしょう。

BPSDは認知症の進行とともに変化 します。軽度でちょっとしたミスマッチ 程度であれば、周りの人の察しと心配り 次第で事なきを得ることも可能です。し かし重度になると、便こねや異食(本来 食ぺられないものを口にすること)など大脳傷害のストレートな表現としてのBPSDが多くなります。それだけに本人 の生理的欲求や快適さを正しく見積るこ とが必要になります。

BPSDへの対応の基本は、本人の本当は何をしたいのかへの察しと介護者に よる対応の仕方という2つの点にありま す。このような基本的な考え方に立って、 対応の実際を具体的に紹介してみましょう。

1-1 BPSDのとらえ方⇒患者と家族の平穏な生活が認知医療の根本課題

認知症になっても、人の役に立ちた い・認めてもらって自由に生活したいと いう人間の本能に変わりはありません。 ところが記憶力はもちろん、判断力や注 意力、その他認知機能の悪化により本人 の真意とは裏腹に、やることなすことが 裏目に出て、周りには迷惑行為(BPSD)となってしまいがちです。

こうした認知症に特有の行動障害によ り、家族のフラストレーションは高まります。認知症の当事者にとっては能力低下に起因する「生活しづらさ」に、この 家族の不機嫌が上乗せされるわけです。 そこで両者の間に「一触即発の緊張」を 生じます。事実、高齢者虐待の大きな要因として、認知症は以前から指摘されてきました。とくにBPSDの存在は、虐待をさらに促進するといわれています。

そこで、いかにして患者と家族に平穏な生活をもたらすかが、認知症医療の根 本課題になります。認知症患者の医療・介護に関与する人たちには、この点を認識して介護者への介護という観点を持つことが望まれます。

1-2 BPSDの概要⇒行動症状と心理症状に分けて対応する

国際老年精神医学会は、いわゆる問題行動の定義・原因・対応法などを体系化させるべくBPSDという臨床的な新概念を提唱しました。これは、まず行動症状と心理症状に大別されます。

行動症状

① 焦燥・不穏や徘徊などの活動的な障害

② 攻撃性

③ 食欲・摂食障害

④ 概日リズム障害

⑤ 社会的に不適切な行動

心理症状

① うつ症状など感情の障害

② アパシー(無気力状態)

③ 妄想と誤認性症候群

④ 幻覚

1-3 BPSDの臨床経過 ⇒初期から中期にかけて増悪しそれ以降は減少する

私は在宅のアルッハィマー病(AD) 患者にみられるBPSDについて、その 臨床経過を6年間にわたって追跡し、検討したことがあります。その結果概要を紹介しましょう。

まず「AD患者のBPSDの経過は、 どのような軌跡を描くか?」について検討しました。その結果、概して初期から中期にかけて増悪していき、それ以降は 次第に減少することが明らかになりました。

次に、ADにみられるBPSDの重篤度を予測する因子について検討してみました。その結果、

①調査開始時点でBPSDが重度な者では、後の経過においてもそれが重度になることが示されました。

②調査開始時点での認知症の重篤度が寄与していました。つまり軽度であれば、 その後のBPSDの悪化が予想され、 中等度・重度であれば、その後はこれが軽減するとがわかったのです。

③介護サービスの利用が、BPSDへの軽減効果を持つことが明らかになりました。

④ADの発症にかなり寄与するアポリポ タンパクE4遺伝子の存在は、BPSDとはほぼ無関係であることが示されました。

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